「図説 台湾の歴史」
毎日あまりにも暑いので、お出かけを自粛。本読み中心の日々です。
- 作者: 周婉窈,濱島敦俊,石川豪,中西美貴
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2007/02/01
- メディア: 単行本
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著者の周婉窈教授は台湾大の歴史系で教鞭をとっておられる。先のNHK「アジアの"一等国"」においても監修で協力している台湾における台湾史の第一人者。
この本は1997年に「台湾歴史図説」として台湾で出版された。序文において、「戦後50年間も台湾人は台湾の歴史を学ぶことができなかった」、「台湾人が台湾の歴史を学ぶことができなかった時期は100年にも及ぶ」と周教授は言う。自らの歴史を体系的に学ぶチャンスを持たなかった台湾の人々に、その歴史をわかりやすく解き明かそうという趣旨のもと、図版、写真を多用し、編纂された本である。台湾では、出版以降現在まで9万部弱を売り上げた、学術書としては異例のベストセラーであるそうだ。
多数の族群(エスニックグループ)からなる台湾史をどう描いていくかという問題に対する真摯な取り組み。そこから「台湾(台湾人)とは何であるのか」という問題の端緒を見出そうという試み、とも言えそう。
叙述は先史時代から始まり、原住民族のものであった台湾、漢人の移民の増大と原住民との関係、そして日本統治時代にいたり、2つの抗日運動(西来庵事件と霧社事件)に触れ、統治下の治世・教育・文化、日本版に特別に増補された戦後台湾(二二八事件、白色テロ、民主化運動)へといたる。
やはり、日本と関わってくるあたりから、台湾に暮らす人々が嘗めてきた辛酸について思い致すことになり、学術書なのに、涙なくして読めないものになってくる。
1895年、割譲直後、実は無血で開城したのは台北と台南2箇所であり、ほとんどの他の地域においては、すさまじいまでの抵抗があったことも改めて思い出させる。呉湯興、呉彭年。武力では圧倒的に劣るながらも、清朝に見捨てられても何がしかのために抵抗した当時の人々にも再び光を当てている。
日本統治下の記述についても、"colonial heritage(植民地遺産)"と言われるように、当然賞賛すべき点はある、としながらも、最大の傷跡は「植民地人民から彼ら自信の伝統・文化や歴史認識を剥奪し、『自我』の虚空化、他者化を招いたことであろう*1」とあり、かつて日本人が台湾に落としていったなかなか癒されない傷について考えさせられる。
台湾では、日本の植民地統治が去ったあと、新たな権威主義的統治機構にさらされたために、ポストコロニアルの問題が、さらに複雑に絡みあうものになってしまった。今でもその中でもがいているような状態だ。
それでも。筆者は、自らの携わる歴史研究というフィールドから、同じ空間、時間軸に生きていながら、異なる認識を持つグループに、それぞれの頑迷さを排し、お互いに自らを開いていくことを呼びかける。過去に生きた人々のその時代の環境、状況を理解し、心寄せることを度々促してくる。
複雑に絡みあい、先が見えないような泥沼かもしれない。しかし、少しずつでも台湾の人々が自らの歴史を取り戻していくこと、そのことに「台湾の未来」についての光明を見出しているようにも思える。
*1:pp.220