悲情城市を見た
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
- 発売日: 2003/04/25
- メディア: DVD
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台湾通の友人からは「当然見たんでしょ?」的な扱いをされていたこの映画なのですが、実はちゃんと見たことはなかったのです…。
この映画が評判になった時分は、まだすっごく世界の狭い学生で、台湾については台湾の場所と教科書に出てくる「1895年 台湾が日本に割譲される」という一行くらいの知識しかなかったのでした。
ベルリンで賞を取り、日本公開され、しばらくしてからおそらくNHKで放送したことがあったと思うのだけれど、冒頭をしばらく見て「…わからん」と諦めた記憶がある。その後は日本ではなかなか目にすることのできない映画となってしまったようで、すっかり機会を逸してしまっていました。
こちらでこのDVDが99元(約300円)で販売されているのを知り*1、中文字幕しかないところに不安を抱きながらも買って見てみることに。もう、不安だらけなので、見ながら中国語ができるうちのだんなに「今何だった?」「何て書いてあった?」と聞きまくりましたよ。静かな映画をやたらうるさい女と見なければならなかっただんなさまカワイソウ。
さて、そんなこんなの個人鑑賞会でありますが。
とてもとても静かに静かに時が流れていく映画でした。侯孝賢監督の技法、初めて見たけど凄い。
カメラがドアの向こう側に設置してあって、見ている私たちがまるでドアの向こうで展開される出来事を眺めているような不思議な感覚。
トニー・レオン演じる四男文清は唖者なのだけれど、筆談の場面もはしょることなく進んでいくのが、この映画のリズムを途切れさせることなく、よりリアルさを増している気がした。
映画で描かれているのは、よく知られているように1945年の敗戦(玉音放送が流れるところから映画は始まる)、統治者が日本から国民党に変わり、1947年の二二八事件を経て、1949年の国民党の台湾・台北遷都まで。物語の軸となる林家の四兄弟を通して、その頃の翻弄される台湾の空気が描き出される。
映画の前半部分はこれから日本人が引き揚げるところで、日本と台湾に引き裂かれる思い人たち、日本語で会話する台湾人インテリ、台湾語ナレーションのなかに日本語特有の言葉が織り交ざっていたり、住居が日本式であったりという場面が描かれる。こういう場面を見ると、少しドキリとする。こういう気持ちが何であるのか、今の私は明確に表現する言葉を持たないのだけれど、台湾は本当に日本だった、という事実が現れるときに少し身構えてしまう。
映画の後半で台湾に吹き荒れたあの二二八事件が描かれる。これも静かに静かに描かれていた。最後四男が消息を絶つのも、まるでフェードアウトしていくように、静かなもの。なのに、むしろその方がリアルさを増すのはなぜなんだろう。
この映画は、実に台湾本省人の悲劇を深く描きだしていると思うのだけれど、驚いたのは侯孝賢監督が、外省人だったということです。映画を見て、その立場からこのような映画を作れるというのは、すごいな、とうなってしまった。本省人、外省人という言葉が日本ではえらく単純に理解されているようだけれど、実は様々な要素が複雑にからみあっているのだろうな、ということを改めて感じた次第。
侯孝賢監督は自伝的に外省人から見た台湾の映画もあるとのことなので、これからどんどん彼の作品を見てみたい、うん、と思った。
*1:この安さ、正規版なのかどうかという不安が残る…