海角七号

やっぱり、こちらは放って置きっぱなしになった…

年末です。私がこちらに来てから1年ほどが経ったことになる。台湾というところは、日本から来た人にはあまり違和感なく溶け込めるのだなあ、という印象。当初からそれほど極端に戸惑うこともなかったように思う。聞いてはいたけれど、日本語ができる人に町で結構な数に出会うのも驚きだった。これは戦時中に教育を受けたおじいさん、おばあさん世代だけでなく、若い世代でも日本語熱が一定程度あるようです。そういう日本語ができる人々、そうでない地元の人々は、外国人に対して非常に温かく、陰日向に支えてくれる、そんな海外生活初心者には、とっても暮らしやすい場所です。

それでも当初は周辺を楽しむ余裕にやや欠けていたものだけど、周りをじっくり見渡せるようになって、こちらの娯楽なんかにも目が向くようになってきた。そんな中出会ってしまったのが、この映画「海角七號」。

最初は日本の映画が見たいなー、映画館にチャレンジ!!と、映画館に行ったんである。そのチケットを買っている時、劇場の予告スクリーンに映っていたのがこの映画の予告。これか。

別の映画を見に来ているのに、これに釘付け。これ台湾映画なのに、何でいきなり日本語なんだろう。しかも予告編で泣きそうになる(笑)。何じゃこりゃ、と。家に帰ってから、この「海角七號」、台湾でものすごい大ヒットしていることを知り、英語字幕があることを確認して、見に行くことを決心。

英語字幕があるとは言え、英語もやや怪しいので、一応大雑把なストーリーは押えていきましたよ(笑)。

ストーリー
阿嘉(范逸臣)は台北でロックバンドでデビューすることを夢見ていたが、夢破れ、故郷・恒春に帰る。失意の日々を送っていたが、怪我をした郵便配達夫・茂伯(林宗仁)の代理で郵便配達夫をすることに。その頃恒春では、日本人有名歌手・中孝介(本人)のコンサートを開催するにあたり、地元バンドを結成して前座を務めさせることになった。おりしも恒春に来ていた中国語を話すことができる日本人モデル・友子(田中千絵)がそのバンドの世話役を務めることに。阿嘉は郵便配達を手伝ううち、あて先不明の日本から来た郵便物を見つける。その中に入っていたのは60年前台湾から引き揚げた教師が、思い人であった教え子に宛てた古い7通の手紙。さてさて、この問題だらけの地元バンドは無事にコンサートを務めることができるのか、また、あて先不明の郵便物は、無事送り先に届けることができるのか。


こう書いてしまうと、何てことのないシンプルでわかりやすいお話なのです。ところが、私を含め(笑)、2度3度と繰り返し劇場に足を運んでしまう人続出だったそうなのです。
映画では主に台湾語が使われ、中国語、日本語が出てくる。登場人物も台湾人、原住民族、客家人、そして日本人。様々な出自の人々が入り乱れ、しかもどの人も生き生きと描きだされている。その様子がいかにも「台湾」なんですよね。台湾の台湾としてのよさが画面いっぱいにあふれ出てくる感じ。
そして、2時間ちょっとという長さの中で、ストーリーがいい感じにいい加減なのかも(誉めてます 笑)。それぞれのエピソードに突っ込みすぎないがゆえに、観客の方で「あれは実はこういうことだったのでは」「あの時には、こうだったのかも」とイメージを膨らませることができる。それぞれがそれぞれの「海角七號」を胸にしまって、見終わったあとも、ああだこうだ語りあうことができるのでしょうね。

この映画を撮った魏徳聖監督、実は本当に撮りたい映画があって、何年か前から資金集めに奔走していたんだそうです。でも、長編映画の実績がない新人の監督には、そうおいそれと資金を提供してくれる人もいない。それならば、まず実績を作ろう、ということで製作したのが「海角七號」なのだそうだ。自宅を抵当にいれ、資金集めて。
大きなギャンブルだったから、時間もお金もかかっても、フィルム無駄にしても、監督は一切のことに妥協しなかったらしい。だって「これが自分が撮れる最後の映画かもしれない」から。そんな思いが結実しているせいなのかもしれないな、見る人の心を打つのは。

そして、何より。一日本人である私にとっては。
日本と台湾。この二つのつながりに心揺さぶられました。60年前の手紙。果たされなかった思い。映画の中で手紙はエピソードの一つにすぎないのだけれど、かつて台湾は日本であったこと、国という大きな力の前で押しつぶされそうになっていた一人間が、おそらくそこかしこにいたこと。そのことに思いをはせないではいられなかったです。

なもんだから、この映画が日本で公開されていないことが残念でならないのでした。台湾の人はたくさん見たので、今度は日本の人にこそ見てほしい。親日だー、という一面的なイメージではなく、台湾そのものを知ってもらうために、興味を持ってもらうために、この映画が海を渡って、日本で公開される日を待ち続けています。
そうなってもらいたくて、眠ってるブログを起こしているわけです(笑)。

ネットで探った「海角七號」記事はこちら
魏徳聖監督と「海角七号」から見た台湾映画の昔と今
id:drugexp:20081005
海角七号」の魏徳聖監督にインタビューしましたー平野久美子
http://www.hilanokumiko.jp/web/02_topics/index_012.html